女性の生涯で8人に1人が乳癌に罹患し、55歳未満の乳癌患者の1/3は、学校に通う年齢の子どもを持つ1)という。他の癌に比べて、乳癌の好発年齢は若いために、子育て世代が患者であることが非常に多い。
単施設ではあるが、未成年の子どもがいる初発の乳癌患者127人と面談した際に語られた心配事3)を図1に示した。29〜56歳(平均43歳)、子どもの年齢は0〜17歳(平均9.8歳)。
子どもに関する内容では、母親の闘病生活が子どもに与える影響が65%、告知に関する心配が45%(複数回答あり)であり、約半数の母親が子どもへ伝えるか否か、その伝え方、精神面・生活面での子どもへの影響を心配していた。子どもへの対応については、夫婦の間で一番話題になりながら、考え続けても結論に至らず、相談相手の見当がつかないまま、多くの場合、発病前までの日常を維持しようと母親が一人で奮闘していた。また、11%の乳癌患者は、自分の病状・予後の心配・受け入れの困難さを語り、子どものことはもちろん心配だが、今は自分自身を立て直さなければ何もできない、という差し迫った様子であった。
子育て世代の乳癌患者には、疾患・治療の受容とともに家族支援、特に子どもに関する支援を必要としているといえる。
子育ての大半を担っている母親が癌に罹患し、闘病が始まることによる生活の変化は、父親の発病以上に子どもへの影響は大きい。
年少児であるほど生活の多くを母親に依存しているので、母親の様子の変化を目の当たりにする。術後は、同時再建をしたとしても、しばらくは母親との入浴に支障をきたすこともあれば、痛みによる腕の動きの不自由さのために抱っこをしてもらえないこともある。今まで母親と一緒にしていたことができなくなり、自分に対して怒っているのだろうか、嫌われてしまったのだろうか、と混乱する。思春期の子どもたちは、大人の会話の端々や、両親の表情を敏感に感じ取り、ただならぬことが起きていることを推測する。不確かな情報は子どもを不安にさせ、さらに恐ろしいことを想像して、もっと不安にさせる。そして、周囲の大人が子どもから尋ねられることを避けている様子を察知し、相談することもできずに不安のまま孤立していく。
海外の報告によると、乳癌患者を親に持つ子どもと対照群を比較した調査では、男児の方が集団生活での感受性が高く、孤立しやすいという報告2)や、両親が辛いと感じている場合にその子どもは内向性*1が高い行動をとるという報告3)がある。また、母親が乳癌患者であることの心的外傷後ストレス症状(Post traumatic stress symptom:PTSS)*2は男児で33%、女児で45%(男児21%、女児35%という報告4)もある)、家族の凝集性*3が悪いことは子どもの外向性*1を、母親が抑うつ状態にあることは内向性を助長しているという報告3)もある。
筆者の施設の調査では、乳癌患者である母親の51%(IES-R*4:カットオフ値以上)、その子どもの52%(PTSD-RI*4:中等症以上)がPTSS症状を呈していた(図2)。子どもの情緒・行動についての評価(図3)では、子ども自身が総合的に問題があると意識している割合が52%にも上った。また、母親から子ども(就学児童)を見た評価では内向性の問題が26%、未就学児では注意・集中の問題が40%であった。
このような子どもの情緒・行動の問題の対応に大切なことは、信頼関係である。子どもにとって最も大切な人の重要な事実は、できるだけ嘘がないように伝えることで親子の信頼関係が築かれていくものと思う。


今ある情報をすべて包み隠さず子どもに伝えることが必要なのではない。子どもが必要としている情報を子どもの様子に合わせて、子どもが理解できる言葉で伝えることが大切である。
子どもに伝えたいことは、3つある。
a)お母さんの病気は、子どもたちが普段よく罹って、簡単に治るような風邪のような病気とは異
なるものであること。“がん”という名前は、もし伝えることが可能ならば、一度でよいから伝え
られるとよい。
b)お母さんの病気(がん)はうつるものではないこと。
c)お母さんが病気になったことは、誰のせいでもないこと。もちろん、あなたのせいでもないこと。
あなたや他の人も風邪をこじらせるとお母さんみたいに大変なことになる、お父さんも罹ってしまうかもしれないとか、一緒にいるとうつる、というような不必要な心配を除いておくことが必要である。癌、という病名を伝えた場合は、お母さんにとってあなたはとても大切な人だから話している、あなたにとって同じように大切な人がいて、このことを話したいと思ったら、その人に話す前にお父さんとお母さんに相談してほしい、とも付け加えておくと良い。
そして、信頼関係が整い安心感が保障される関係になると、「死んじゃうの?」などとドキッとさせられるような質問が来ることもある。安心させたい親心から「死なないよ」と嘘になるような言葉は避けた方が良い。まずは、「そんなふうに心配なのね」と子どもの不安を受け止めることから始めると良い。手を握ってあげたり、そっと抱き寄せてあげると、言葉の意味以上の心が伝わるものである。
また、子どもたちは、目の前の現象には何か原因があるはずと考えるものである。特に大切な人の一大事となると、その原因が自分にある、「自分が良い子にしていなかったから」などと考えがちであるので、お母さんの病気は、誰のせいでもないことを伝えておくことはとても大切なのである。
母親の一大事に直面して、子どもたちにはいろいろな感情が湧いてくる。母親の状態について、大人が真剣に話をすることで、自分の気持ちを自然に家族に表現することが可能な関係で居られる。しかし、何か隠しごとをすると、子どもたちは触れてはいけないことがあるのを敏感に察し、それに関する自分の気持ちも家族に話してはいけないことと感じて孤 独感の中で過ごすことになってしまう。
もちろん、子どもへ話をする時期は、患者である母親自身が、まずは自分の病気を受容でき、心の準備が十分にできてからでかまわない。家族の状況に合わせて、子どもが家族の輪の中に入っている実感を持てることが大切である。
