| 乳頭皮膚の発赤、びらんが癌と関係することを初めて記載したのは英国の外科医Sir James Pagetで、1874年に報告しています。Pagetは正しくは「パジェット」と呼びます。乳頭皮膚に所見を認める臨床的なPaget病のうち、乳腺内の癌巣が非浸潤か微小浸潤のものが真のPaget病であり、乳腺内の浸潤癌が経乳管的に乳頭表皮に進展したものをPagetoid癌と呼びます。Paget病は高齢期の癌であり、早期癌で予後は良好ですが、Pagetoid癌は進行癌のことが多くなっています。 |
| ■どのような病気か? |
Paget病は乳管癌の乳頭表皮への進展による乳頭皮膚の発赤、びらんが特徴です(図1)。乳頭皮膚に進展した癌細胞(腺癌細胞)をPaget細胞と呼びます。古典的には乳頭表皮に進展した大型の明るい泡沫状の細胞質と、大きく目立つ核をもつ円形ないし卵円形の細胞をPaget細胞と呼びますが、現在では経乳管的に乳頭表皮内に進展した腺癌細胞は形態の如何にかかわらずPaget細胞と呼びます。表皮内に進展したPaget細胞により乳頭皮膚は発赤を示し、Paget細胞が表皮を破壊するとびらんを形成します。Paget細胞の表皮内の進展速度は1年間に半径3.6mmです。Paget細胞が表皮の基底膜を破って表皮下に浸潤することは例外的で、乳腺内の癌巣を長期間観察した症例でも浸潤癌になることは少ないようです。しかし、20 年間も放置された例ではPaget細胞が乳頭、乳輪から乳房皮膚まで進展した症例があります。
手術後の検索で乳管癌の乳頭表皮への進展が確認されても、術前に乳頭皮膚の変化に気付かなかったものを前臨床的Paget病と呼びます。臨床病理学的な発現頻度は、Paget病が乳癌全体の約0.5%です。臨床的に乳頭皮膚に同じような所見を示すPagetoid癌もほぼ同じ頻度でみられています。Paget病の発症は他の組織型に比べやや高齢者に多く、乳腺内癌巣が非浸潤ないしは微小浸潤に限られることから、リンパ節転移はみられず予後が良好です。一方、Pagetoid癌はリンパ節転移が多く予後は不良です。 |
| 図1 乳頭びらん |
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| ■画像診断 |
Paget 病の広がりは、乳頭に限局するものから乳房内に広範囲に進展するものまでさまざまで、乳頭周囲に限局するものでは画像として捉えられないこともあります。マンモグラフィではその病変を描出できないこともあり、報告によっては3割弱あるいは半数程度で所見を有するとされています1,2)。マンモグラフィでの主となる所見は乳頭付近あるいは乳房内に進展する石灰化であり、線状、多形性のcomedo typeの石灰化を考えさせるものが多くなっています(図2)。乳頭陥凹や皮膚の肥厚あるいは腫瘤を描出することもあります3)。
超音波検査では、乳管内成分の進展が直接管状低エコー(乳管)として捉えられることもあります。乳管は乳頭から連続してあるいは断続して描出され、石灰化を伴う場合には高輝度エコーが描出されます。浸潤成分が境界不明瞭な低エコー域として認識されることもあります。
マンモグラフィ、超音波検査といった基本となるモダリティで描出できない場合でもMRIが有力な手段となることが報告されています。乳頭そのものの異常な染まりや線状区域性のenhancementが描出されることで、進展の範囲を客観的に認識することができます(図3)。手術前の温存療法が可能であるかどうかの広がり診断にはMRIが特に有用であることが指摘されています4)。 |
| 図2 マンモグラフィ |
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図3 MRI |
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| ■治療 |
| Paget病の基本は手術ですが、その術式を決めるためには、術前の広がり診断が極めて重要です。すなわち、病変が乳頭、乳輪およびその近くの乳腺に留まっている場合は、乳頭、乳輪を含む部分切除は必要なものの、放射線治療との組み合わせで、いわゆる乳房温存療法が可能です。しかしこの場合、後日、乳頭乳輪形成が必要になります。また、中央部をシリンダー状にくり抜くために辺縁の腫瘍の切除に比べ、ボリュームが小さくなります。そこで乳房の大きな場合は、対側乳房のreduction mammoplastyを行うこともあります。腋窩リンパ節に対しては、かつて触知腫瘤を伴わないPaget病の場合、転移の可能性が極めて低く、単純乳房切除術でよいとされていましたが、時には浸潤癌を伴うこともあり、センチネルリンパ節生検を併施することが望ましいとされています。術後補助療法に関しては、併存する乳管癌の程度に応じた標準治療を行います。腫瘤を形成せず浸潤癌を伴わないPaget病の予後は良好です(表1、2)。 |
| 表1 手術のみによるPaget病の治療成績 |
| 発表者 |
n |
提示ケース |
治療 |
局所再発 |
中央値F/U |
Dixon AR, 1991 |
37
10 |
No mass
No mass
マンモグラム所見における乳頭隣接石灰化 |
単純乳腺切除術
乳頭-乳輪切除+乳腺基底組織/石灰化切除 |
2(5%)
4(40%) |
40カ月
56カ月 |
Lagios MD, 1984 |
5 |
No mass
Normal mammogram |
乳頭−乳輪切除(n=4)
乳頭−乳輪部分切除(n=1) |
0(0%)
1(100%) |
50カ月 |
| F/U:フォローアップ期間 |
表2 乳房温存術と放射線によるPaget病の治療成績 |
| 発表者 |
n |
提示ケース |
治療 |
局所再発 |
中央値F/U |
Fourquet A, 1987 |
17 |
No mass
Normal mammogram |
生検+放射線 |
33(18%) |
90カ月 |
Bulens P, 1990 |
13 |
No mass |
生検+放射線 |
0(0%) |
52カ月 |
Stockdale AD, 1989 |
19
6 |
No mass
Normal mammogram
No mass
Abnormal/unknown mammogram |
生検+放射線
生検+放射線 |
3(16%)
5(8%) |
63カ月
63カ月 |
Rissanen PM, 1969 |
8 |
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局所手術+放射線 |
3(38%) |
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Bijker N, 2001 |
61 |
No mass, 97%
Normal mammogram, 84% |
全乳頭−乳輪切除+放射線 |
4(6%) |
77カ月 |
Marshall JK, 2003 |
36 |
No mass
Normal mammogram |
部分的乳頭−乳輪切除+放射線(n=9);
全乳頭−乳輪切除+放射線(n=25) |
4(11%) |
113カ月 |
| F/U:フォローアップ期間 |
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| 参考文献 |
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| 1) |
坂元吾偉監修. 乳腺の組織型診断と病態,(じほう)p72-75,2006 |
| 2) |
Ikeda DM et al. Radiology 189:89-94,1993 |
| 3) |
Burke ET et al. Radiographics 18:1459-1464,1998 |
| 4) |
Amano G et al. Jpn J Clin Oncol 35(3):149-153,2005 |
| 5) |
Dixon AR et al. Br J Surg 78:722-723,1991 |
| 6) |
Lagios MD et al. Cancer 54:545-551,1984 |
| 7) |
Fourquet A et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys 13:1463-1465,1987 |
| 8) |
Bulens P et al. Radiother Oncol 17:305-309,1990 |
| 9) |
Stockdale AD et al. Lancet 2:664-666,1989 |
| 10) |
Rissanen PM et al. Oncology 23:209-216,1969 |
| 11) |
Bijker N et al. Cancer 91:472-477,2001 |
| 12) |
Marshall JK et al. Cancer 97:2142-2149,2003 |
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